Chapter-6 『I wanna "See you"』
2020年8月某日。
今日も研究所には"円盤"の解析に没頭するみくろと、遊びに…もとい監視に来るあえるの姿があった。
「もー、また来たの?ここスタバじゃないんだけど。」
「まあまあ固いこと言わないでさ…てかあたし誕生日だよ!?祝ってくれてもいいじゃん!」
「未来じゃ誕生日なんて祝う文化なかったでしょ。ちょっとこの時代に被れすぎなんじゃない?」
悪態をつき合う2人の平穏かつ変わらぬ日々は自分たちが未来からやってきた事実も、その未来で起こった出来事も少しずつ薄れさせていき、時代すらも彼女達がが溶け込むことを許容しているかのようだ。
「んんー、やっぱこれも違うかあ」
みくろはそうぼやくと、解析機から排出された円盤を取り出し、そして永らく手に付けていなかった別の円盤に手を伸ばした。
それはかつて故郷である未来から持ち出し(本人にその記憶はなかったが)た、オーパーツであった。
その右手からヌルリと呑み込まれた”円盤”は、いつもと何ら変わらぬ動作音を微かに発しながら回転し始めた。
「え…これって……」
みくろの声色から異変に気付いたあえるは、まるで我が家のようにくつろいでいたソファーから徐に身を起こす。
「どうしたの?」
あえるがみくろの身体越しにモニターを覗き込む。
いつもはうざったそうに身を捩るみくろも、このときは微動だにせずモニターを眺めていた。
「これ…どういうこと?ここに何で私が映ってるの?みくろも…」
ノイズで判別しづらくはあったが、そこに映っていたのは紛れもなく衣装を身にまとい”IDOL”として踊る2人であった。
みくろは咄嗟にその円盤が入っていたケースを手に取る。
”2420.08.XX.PIQCELL”
「やっぱり間違ってない。未来から持ってきた”やつ”だ…。」
「でも未来の円盤に私たちが映るはずないじゃん!おかしくない?」
「おかしいよ…おかしいけど……」
言葉に詰まるみくろ。
不安気に画面を見遣るあえる。
新たな足音は確かに近づいて、緩やかに止まりつつあった2人の時間は再び加速度を増して動き始めた。
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